※part2の続きです。
そして迎えた合宿最終日。
建前は勉強合宿なので一応午前中に申し訳程度の授業をします。
しかし飲み会の次の日の授業。部屋はもういいんじゃないか。といった倦怠感に包まれています。
今時の、しかもそんなにお利巧でもない大学の授業なんてこんなもんですよ。
ゆるいんです。高校の頃、バリバリの体育会系で育った私にはその緩さが初めは違和感でした。
そんなぬるま湯につかりきった学生たちが日本の将来を背負っているんですからね。
日本の未来は明るい。
そして授業が終り、それからは各自解散。
行きは集合して移動しましたが、帰りはお好きにどうぞ。ってやつです。
大学も夏休みでしたしね。
私達は街で買い物をして帰ろうということになりました。
そして街を練り歩いていると、唐突にハリーが
「あっ、XLARGEのショップがある!」
と目を輝かせていました。
XLARGEっていうのはあれです。ゴリラのやつです。
当時私達は皆ストリート系ファッションが好きだったんですよね。
ハリーはストリート系ブランドの中でも特にXLARGEが好きだったみたいで、見つけるやいなや我先にと店に入っていきました。
そして店内を物色中、彼はウキウキしながら「俺XLARGEのデニム丁度欲しいと思ってたんよな!よっしゃ、これにしよ♪」
と言いながらご機嫌にデニムを一本購入していました。
そして帰りは高速バス。
時間も迫ってきていたので私達グループはバスターミナルへ。
「さっき買ったデニム見せてよ」
とハリーに言うと、ハリーも見たかったらしくすぐに紙袋からデニムを取り出し広げました。
「あっ!これXLARGEと違う!モンタージュや!!」
またしても意味が分かりませんでした。
そして私はハリーの広げているデニムを見てみました。
確かに『montage』と書いてあります。
XLARGEの店に置いてあるんだから全部XLARGEだと思っていたのですが、どうやら少数ながら他のブランドも置いてあったみたいです。
結果XLARGEのデニムだと思っていたのが、箱を開けてみるとmontageのデニムだったのです。
この数日間、色々不運続きだった彼は少々自暴自棄になってしまいました。
しかし、バスの時刻も近づいている。ゆっくりしている暇はない。
皆の頭にあることはただ一つ。
バスに乗る前に飯を食わなければ。
凹むハリーを程々に慰めつつ何処か食事を出来るところを私達は探しました。
そしてバスターミナル近くにうどん屋があったのでそこで食事をすることになったのです。
セルフサービスのうどん屋。
私はかけうどんを注文しレジへ。
お金を払っていると隣から「あぁ……!」とハリー。
どした?と聞くと、
「うどんの中に十円落とした」
と少しはにかみながら言うハリー。
うどんは熱々のかけうどん。素手で取るのは難しそうです。
すると店の店員さんがトングで十円を取ってくれました。
「可哀そうだからこれあげる」
と、なんと海老天をサービスしてくれたのです。
ここに来てようやく人の優しさに触れた。。。
と喜ぶハリー。
不運続きの合宿でテンションの落ち込んでいた彼でしたが、どうにか機嫌も直ったようです。
バスの時間もあるので私達は少し急ぎ目にうどんを食べました。
ハリーは男らしくどんぶりを持ち、うどんの出汁を飲んでいます。
どんぶりを持ったままピタッと止まるハリー。
そしてどんぶりをそっと机に置き、顔は上を向いたまま。
みんなの視線がハリーに集中します。
すると突然震えだすハリー。
そして口から出てきたのは100円玉。。。
そうです。うどんに落としたのは10円だけではなかったのです。
110円落としていたのです。
そして無事?バスに乗車。
私は酔い止めを飲み、気を紛らわせるため音楽を聴こうとイヤホンを。
ふと後ろに座るハリーを見てみると、仏頂面でまんじりともせず座っているではありませんか。
酔い止めは?
私が聞くと、鞄の中。とだけ。
バスのトランクルームに入れた鞄の中に酔い止めが入っているみたいです。
発車してしまった今、もう酔い止めを飲むことは出来ません。
水は?と聞くとバスターミナルに置き忘れた。とハリー。
その後、私は目的地に到着するまで眠っていたのですが、彼は酔いで眠ることも
出来ず、音楽を聴こうとしたら携帯の充電が切れてしまったとのことです。
なんせ充電器は合宿初日にスケルトン化してしまいましたからねぇ……
~ついてない男の話。完~